差引認定とは
差引認定は、日本年金機構による「障害認定基準」(109頁)において、次のように定められています。
- 障害認定の対象とならない障害(以下「前発障害」という。)と同一部位に新たな障害(以下「後発障害」という。)が加わった場合は、現在の障害の程度(複数の障害が混在している状態)から前発障害の障害の程度を差し引いて、後発障害の障害の程度を認定する。
- 同一部位とは、障害のある箇所が同一であるもの(上肢又は下肢については、それぞれ1側の上肢又は下肢)のほか、その箇所が同一でなくても眼又は耳のような相対性器官については、両側の器官をもって同一部位とする。
- 「はじめて2級による年金」に該当する場合には、適用しない。
このため、同じ部位に別の障害が加わった場合は、後発障害のみで認定するために、先発障害の程度を差し引いて認定することとなっています。
「はじめて2級」は、「障害認定基準」(2頁)において次のように定められています。
- 「はじめて2級による年金」とは、既に基準傷病以外の傷病により障害の状態にあるものが、基準傷病に係る障害認定日以後65歳に達する日の前日までの間において、初めて、基準障害と他の障害とを併合して障害等級が1級又は2級に該当する程度の障害の状態に至った場合に支給される障害基礎年金及び障害厚生年金をいう。
そのため、新たな傷病と今までの傷病を合わせると2級以上になる場合は、はじめて2級が適用され、3級又は障害手当金であれば差引認定が適用されることになります。
併合判定参考表
併合判定の場合や差引認定の場合に使用する併合判定参考表について、ここでは視覚障害のみを抜粋してお示しします。
| 障害の程度 | 番号 | 区分 | 障害の状態 |
|---|---|---|---|
| 1級 | 1号 | 1 | 両眼が失明したもの |
| 10 | 視力の良い方の眼の視力が0.03以下のもの、又は視力の良い方の眼の視力が0.04かつ他方の眼の視力が手動弁以下のもの | ||
| 11 | ゴールドマン型視野計による測定の結果、両眼のI/4視標による周辺視野角度の和がそれぞれ80度以下かつI/2視標による両眼中心視野角度が28度以下のもの、又は自動視野計による測定の結果、両眼開放視認点数が70点以下かつ両眼中心視野視認点数が20点以下のもの | ||
| 2級 | 2号 | 1 | 視力の良い方の眼の視力が0.07以下のもの、又は視力の良い方の眼の視力が0.08かつ他方の眼の視力が手動弁以下のもの |
| 2 | ゴールドマン型視野計による測定の結果、両眼のI/4視標による周辺視野角度の和がそれぞれ80度以下かつI/2視標による両眼中心視野角度が56度以下のもの、又は自動視野計による測定の結果、両眼開放視認点数が70点以下かつ両眼中心視野視認点数が40点以下のもの | ||
| 4号 | 7 | 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの(求心性視野狭窄又は輪状暗点があるものについて、I/2の視標で両眼の視野がそれぞれ5度以内におさまるもの) | |
| 3級 | 5号 | 1 | 一眼の視力が0.02以下、かつ、他眼の視力が0.1以下のもの |
| 6号 | 1 | 視力の良い方の眼の視力が0.1以下のもの | |
| 2 | ゴールドマン型視野計による測定の結果、両眼のI/4視標による周辺視野角度の和がそれぞれ80度以下のもの、又は自動視野計による測定の結果、両眼開放視認点数が70点以下のもの | ||
| 3級(治らないもの)・障害手当金(治ったもの) | 8号 | 1 | 一眼の視力が0.02以下のもの |
| 9号 | 1 | 視力の良い方の眼の視力が0.6以下のもの | |
| 2 | 一眼の視力が0.06以下のもの | ||
| 3 | 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの | ||
| 4 | 両眼による視野が2分の1以上欠損したもの、ゴールドマン型視野計による測定の結果、I/2視標による両眼中心視野角度が56度以下のもの、又は自動視野計による測定の結果、両眼開放視認点数が100点以下のもの若しくは両眼中心視野視認点数が40点以下のもの | ||
| 10号 | 1 | 一眼の視力が0.1以下のもの | |
| 2 | 両眼の調整機能及び輻輳機能に著しい障害を残すもの | ||
| 11号 | 1 | 両眼の調節機能又は運動機能に著しい障害を残すもの | |
| 2 | 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの | ||
| 3 | 一眼のまぶたに著しい欠損を残すもの | ||
| 12号 | 1 | 一眼の調節機能に著しい障害を残すもの | |
| 2 | 一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの | ||
| 13号 | 1 | 一眼の視力が0.6以下のもの | |
| 2 | 一眼の半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの | ||
| 3 | 両眼のまぶたの一部に欠損を残すもの |


事例
以下は架空の事例です。
1 弱視(先発障害)と緑内障(後発障害)の事例
Aさんは、幼少期から両目とも弱視で、矯正視力が両目とも0.5でした。
Aさんの弱視は、障害手当金相当であり障害要件が2級に満たないため、20歳を超えても20歳前傷病による障害基礎年金を受給することができませんでした。
矯正視力が変わらないまま、Aさんが会社員として厚生年金保険に加入していた50歳の時、右目に緑内障を発症しました。
障害認定日の状態は、左目は0.5、右目は0.02の矯正視力に、また右目に視野変状を残す状態になりました。
この場合に、差引認定を用いることにより受給できるか検討します。
- 先発障害(弱視)視力:併合判定参考表第9号1に該当。活動能力減退率は14%。
- 後発障害(緑内障)視力:併合判定参考表第8号1に該当。
- 後発障害(緑内障)視野:併合判定参考表第13号2に該当。
まず、別表4の注2により後発障害で併合判定を行いますので、8号と13号の組み合わせは併合(加重)認定表により8号となります。
8号の活動能力減退率は45%
45%(後発障害)-14%(先発障害)=31%
緑内障が治らないものと判断された場合は、差引結果認定表で「31%(治らないもの)」に該当し「厚年令別表第1 3級 14号」(障害厚生年金3級14号)となります。また、症状固定により治ったものと判断された場合は、差引結果認定表で「31%(治ったもの)」に該当し「厚年令別表第2 21号」(障害手当金)となります。
そのため、Aさんは後発障害の緑内障により、障害厚生年金3級14号または障害手当金が受給できることになります。
2 弱視(先発障害)と加齢黄斑変性(後発障害)の事例
Bさんも、幼少期から両目とも弱視で、矯正視力が両目とも0.5でした。
BさんのAさんと同様に、20歳前傷病による障害基礎年金を受給することができませんでした。
矯正視力が変わらないまま、Bさんも会社員として厚生年金保険に加入していた50歳の時、加齢黄斑変性を発症しました。
障害認定日の状態は、左目は0.3、右目は0.02の矯正視力に、また視野も両眼による視野が2分の1以上欠損したものに該当することになりました。
この場合に、差引認定を用いることにより受給できるか検討します。
- 先発障害(弱視)視力:併合判定参考表第9号1に該当。活動能力減退率は14%。
- 後発障害(加齢黄斑変性)視力:併合判定参考表第8号1に該当。
- 後発障害(加齢黄斑変性)視野:併合判定参考表第9号4に該当。
まず、別表4の注2により後発障害で併合判定を行いますので、8号と9号の組み合わせは併合(加重)認定表により7号となります。
7号の活動能力減退率は56%
56%(後発障害)-14%(先発障害)=42%
加齢黄斑変性が治らないものと判断された場合は、差引結果認定表で「42%(治らないもの)」に該当し「厚年令別表第1 3級 14号」(障害厚生年金3級14号)となります。また、症状固定により治ったものと判断された場合は、差引結果認定表で「42%(治ったもの)」に該当し「厚年令別表第1 3級 12号」(障害厚生年金3級12号)となるところです…
が、
現在の障害の状態が7号となるため、別表4の注1の表を適用する必要があります。
そのため、Bさんの場合は、加齢黄斑変性が治らないものとされても「厚年令別表第1 3級 12号」(障害厚生年金3級12号)が受給できることになります。
平成29年の厚生労働省の資料においては、「昭和61年度以降に差引認定が確認できた全事例(270件)」とされていることから、約30年で270件、1年あたり9件になるわけですから、差引認定が実際に行われるのは非常にレアなケースです。
もともと持病があるから、20歳前傷病による障害基礎年金しか無理だ…と思わず、一度ご相談していただければ、少しでも可能性が見つかるかもしれません。
当事務所は、当事者社労士による視覚障害専門の社労士事務所です。
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